一里塚|シャシンとカメラのお板
日々撮りためた写真やお気に入りのカメラ、プチ薀蓄などをご紹介しています
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香り
香り#1

土砂降りの撮影行の帰り道に立ち寄った喫茶店でいつものごとくアメリカンコーヒーを注文、
ブラックで一服と思ってふと思い出したのですが・・・・

肉厚のカップに淹れられたコーヒーからほのかに香る芳香、
これを写真で上手く表現することはできないものか、
何かの折にいつも気づくことを、またまた考えてしまいました。

百聞は一見に如かず、写真はよりリアルにものの形やその時の状況を伝えてくれます。
それは百万言を費やす説明より、冷静に記述された新聞記事よりインパクトがあります。
優れたドキュメンタリー写真などではその場に立ち会ったような臨場感を得られます。
優れた写真からは、ある程度の音や匂いも想像できます。

でも、香りはどうでしょうか。
確かに料理写真や魚市場の写真からはその場の匂いをかなり正確に想像できます。
しかし、その場で感じる香りを臨場感を持って楽しんだ経験は皆無と言っていいでしょう。
写真から理屈で香りとして感じることはできても、何気なく見た写真で香りを感じることはありません。

これが何とかならないものか、と、時たま撮ってはみるのですがね。
まだ撮れたことはありません。



『かをり』考

「香り」とは、ほのかに感じる心地よい匂い、というのが一般的な解釈です。
ポイントは「ほのかに」と「心地よい」というニュアンスにあります。

香りと似た言葉に「匂い、臭い」があります。
匂いは鼻で気持ちよく感じる空気、臭いは気持ち悪く感じる空気です。
ここで、匂いに絞ってみても、「心地よい」には近くても「ほのかに」とは違う感じがします。

匂いは直接対象物と結びついた関係にありますが、
香りは必ずしも対象物とは一致していません。
バラの匂いはバラの花から出ますが、バラの香りはバラの花に限りません。
インスタントの松茸のお吸い物、松茸の香りがするとは言いますが、松茸の匂いとは言いません。
お茶の香り、コーヒーの香り、木々の香り、、、、
女の香りは心地よいが、女の匂いはナマナマしい。
匂いは嗅ぐもので、香りは感じるものか。

香りはどうやら他の感覚と結びついた心象的な匂いの理想形なのか?などと感じます。
そうすると、視覚と結びつけて写真で表現することが可能ではないかと思うのですが。


話は変わりますが、香りは仮名で書くと「かおり」、
これを洒落たつもりか「かほり」と表現したのを時々見ることがあります。
多分「歴史的な仮名遣い」あるいは「文語、旧仮名」のつもりで使っているのでしょう。
しかし、これは日本語としては間違い、×なのです。

「歴史的仮名遣い」は、歴史的にかつてそういう発音をしていた「けふ」とか「たまふ」とかと同様に、
発音が変わってきても表記はそのまま、という文語のことですから、
歴史的に使われた実績のない「かほり」は「歴史的仮名遣い」ではありません。
「かほり」は「歴史的仮名遣いモドキ」なのです。

「かおり」という単語を歴史的仮名遣い(いわゆる旧かな、文語)で書くと「かをり」です。
言葉としては「か・をり」、「か(香)」が「をり(居り)」という状態を表す合体語です。
万葉時代から中世にはこの文字通りの発音があったようで、
江戸時代初期に編纂された日葡辞典では「かおり」を「QAWORI」という発音で表現しています。
当時までは「くゎうぉり」と日本人は発音していたようです。
もし「かほり」が正しいなら、「QAFORI くゎふぉり」になるはずです。
万葉時代以降になってそれが動詞化し、かをる(香ル、薫ル)などの用法が広まりました。

なぜ、「かほり」なる間違いが発生したのでしょうか。
直接的な要因はヒット曲「シクラメンのかほり」の影響が極めて大だと思います。小椋さん、しっかりしてね。
それとは別に、人名などの固有名詞では「かほり」という書き方も一種の慣習として行なわれていたようです。
それは女の子の名前で、「を」より「ほ」の方が柔らかいニュアンスがあって女の子らしいからと想像されます。
人名の場合には当て字や当て読みの制限はありませんので、軽蔑されるかどうかは別として、
使われても構わない(仕方ない)とされています。

一番大きな問題は、戦後教育で「文語」を禁止し、「口語」基準の日本語を作り、
その口語も「わ」と「は」、「え」と「へ」、「お」と「を」みたいな中途半端な用途限定の例外を設け、しかも、
文語教育まで否定したので、歴史的仮名遣いの正確な理解がすっぽ抜けてしまったからでしょう。
「お」発音の古い書き方は「ほ」だと何の疑いもなく「シクラメン」は刷り込んでしまったのです。
「お」には元々の「お」、「ほ」もあるけど「を」もあるよということに思いが及ばなかったのでしょう。
『モドキ』が大手を振って一人歩きしてしまったのです。

現代仮名遣いは口語モドキの文語です。言葉は変わるものですから、
口語を追いかけてもそれは時とともに「新しい文語」になってしまいます。

旧仮名については、その原典を辿れば法則も用法も簡単に分かりますので、
念のために確認して間違わないよう、恥をかかないように気をつけましょう。
それよりも、日本文化の正しい理解のため、古典をきちんと読み、理解できるように
本来の文語教育もちゃんとやってもらいたいものです。歴史文化は国の宝ですから。


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テーマ:なんとなく - ジャンル:写真

コメント
この記事へのコメント
女子の香りには、馬鹿な香水じゃなく柔らかくとも人間の女子特有のものを求めます。
自分は、鼻が利くので匂いにうるさい方だと思ってます。

ちょい話が違う方向に行きますが・・体育会系でやってきた自分が最悪と感じたのは、ワキガの先輩にクビを決められ押さえつけられた時に痛いのより臭さに失神してしまいました。爆
2008/09/29(月) 20:06:05 | URL | nonakadesu #-[ 編集]
はい、nonakaさん、湯上がりの少し落ちついた頃がよろしいかと・・・ (^^)v

> ワキガの先輩にクビを・・・
ワハハハハ! これは堪えますなぁ。
私にはそこまで壮絶な経験はないですけど、
真夏に新幹線に乗ったとき、そこまで乗ってきたであろう私の席の前の客、
かなりのワキガだったようで若干シートに湿り気が・・・・
座った途端に全身を包むあの饐えた臭い! 車掌に言って席を変えて貰いました。
車掌さんもすぐに気づいたようで、苦笑いしながら気分良く案内してくれました・笑
2008/09/29(月) 20:23:05 | URL | 管理人[MADAM] #.Q7UDCiU[ 編集]
『かをり』考、興味津々で読ませていただきました。
女性の『強烈な香水』の香りは苦手です。
香りではなく音なんですが、家の近くに夕方になるとスズメが集まる木があり、麻雀の名前の由来に納得してしまうくらいチュンチュンしてます。 夏場9月中旬くらいまで大騒ぎしていました。
木は葉が茂り、やや暗くなっているのでスズメ達の姿は見えないですが、『音』はどうすれば撮れるんだろうと考えてしまいました。 
脅かしていっせいに飛び立つところを!なんて考えてもみましたが、脅かしたらスズメ達が可哀想ですよね。
2008/09/29(月) 21:28:57 | URL | maimai #/.OuxNPQ[ 編集]
maimaiさん、みなさん「音」「匂い」「温度」「風」なんてのを如何に表現するか腐心するんですねぇ。
昔、モノクロしかなかったときには「色」が最大の関心事でしたもんね。
人間は五感を使って雰囲気を感じますが、スチール写真に焼き付けた瞬間で
それをどう表現するか、考えれば考えるほど悩ましいですね。
雀を脅すのはやめときましょうね、近所からイケナイオジサンの烙印を押されますよ・笑
2008/09/29(月) 22:53:05 | URL | 管理人[MADAM] #.Q7UDCiU[ 編集]
やはり、ほのかに立ち上がる湯気ではないでしょうか・・コーヒーの場合、焼き物は煙とか、香水は、女性のうなじ、ワキガは汗シミ・・爆
2008/09/29(月) 23:37:15 | URL | 亜哉 #6Rfj3HqM[ 編集]
匂い立つ写真、難しいですね。まあ光以外は
写しとめられないから、見る人の記憶が唯一の
頼りですし。
2008/09/30(火) 00:17:29 | URL | kan #mQop/nM.[ 編集]
写真と香り、、なにやら哲学的な課題ですね。
ところで微妙な香りや匂いから遠い昔に突然舞い戻ったりできるのはちょっと不思議ですね。
(ぼくもちょうどブラックコーヒーを飲みながら書いています・笑)
2008/09/30(火) 03:53:48 | URL | foka #90LdKUd6[ 編集]
亜哉さん、やっぱり湯気が小道具になりますかねぇ。
湯気ももうもうと立ってるとわざとらしいし、
適度な低温と適度な湿度で適度な湯気、難しいな。
こうなったら根競べでしょうかね・笑

kanさん、感性を的確に画像にするってのは難しいですね。
先人もさまざま苦労されていますが、未だ試行錯誤。
見る人の記憶に訴えて、感じてもらうことになるのでしょうか。

fokaさん、天気も悪いし、することもないし、で、哲学してみました・笑
微妙な香りから突然鮮明な記憶が蘇るって体験は何度か経験しましたが、
脳ミソの中のどっかに琴線を爪弾く黄金回路があるんでしょうなぁ。
私の場合は、いこった炭にポタッと落ちた水分の多い脂の煙嗅いで、、、蒸気機関車かな・爆
2008/09/30(火) 08:45:47 | URL | 管理人[MADAM] #.Q7UDCiU[ 編集]
>いこった炭にポタッと落ちた水分の多い脂の煙嗅いで、、、

あ、豆炭の匂い。思い出せますよ、今!
2008/09/30(火) 13:25:56 | URL | foka #90LdKUd6[ 編集]
そうやそうや、fokaさんもあの目がチカチカするシンダーとムッとする油煙、
経験者でしたねぇ。真っ黒けでジャリジャリする鼻くそが勲章でした・笑
その人が反応する特有のニオイで凡そのソダチっちゅうもんが分かりますね。
2008/09/30(火) 13:35:25 | URL | 管理人[MADAM] #.Q7UDCiU[ 編集]
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